昔書いた記事

スコット・リッターからの提言

イラク攻撃を中止せよ!

 

新帝国主義を国連査察で隠す米英豪

イラク情勢が緊迫感を増しつつある。米英豪を中心とする軍隊は、日に日に、イラク包囲網を拡大強化しており、戦争まで、あと一歩。その危機感が、戦争反対の国際世論を盛り上げているのも事実だ。一方、イラクのジレンマは、大量破壊兵器を持っていない、と言えば、嘘だと叩かれ、また、持っている、と言えば、これまた、隠していた、と叩かれることにある。

しかし、戦争が始まってしまえば、被害を被るのは、一般市民である。まして、この戦争は、米英のエネルギー支配や、軍需産業を活性化させる為に行われるとしたら、これは、国際法違反どころではない。単に、新帝国主義化した米英豪による、新植民地主義と言わねばならない。

 

  • 東大駒場で元国連査察官が講演

元国連大量破壊兵器査察官、スコット・リッター氏のシンポジウムが、二月六日東京大学駒場キャンパスで開催された。リッター氏は、二月三日に来日。国会議員との院内集会、外国人記者クラブでの記者会見などを精力的にこなし、離日前日に、最大のイベントとして、この会場に姿を現した。会場に詰め掛けた聴衆は、満杯の七〇〇人。入りきれなかった人が五〇〇人という盛況であった。

一九六一年生まれのスコット・リッター氏は、四一歳のパトリオットである。彼は、彼の生まれた米国を愛するがゆえに、現在、ブッシュ政権下で行われている、ネオコンサーバティブな政策を容認することができない。

旧ソ連軍縮時には、海兵隊員として軍縮査察に関わり、その後、湾岸戦争に情報将校として従軍。一九九一年から九八年までは、イラクの査察現場で、最も優秀な主任査察官として活躍した。事実を丹念に追い、客観的に評価するリアリストでもある。

当日のプログラムは二部構成。第一部は、リッター氏が、イラクでのUNSCOM(国連大量破壊兵器査察特別委員会)主任査察官として、活動してきた経験を基に、イラク攻撃の不当性について講演。第二部では、講演を受けて、パネリストが公開討論を行った。その後、会場に集まったマスコミ各社から、未明のパウエル報告に対する意見を求められ、緊急記者会見が行われた。

  • 査察成功の三条件は守られているか

査察を成功させる鍵は、以下の三つである。一に被査察国の協力。二に国連安全保障理事会のバックアップ。三に、査察国、被査察国双方が法の枠組みに従うこと。

然るに、米国は、イラク大量破壊兵器を解除するという名目で、査察を濫用し、安保理イラクとの合意を無視。国際法上も問題になるような枠組み破壊行為をして、サダム・フセイン追い落としを図っている。

ブッシュ政権が、どんな詭弁を弄しても、これは、アメリカの戦争挑発行為である。しかも、UNMOVIC(国連大量破壊兵器監視検証査察委員会)のブリクス委員長による、一月二七日提出の査察報告書は、ワシントンを意識した意図的偏見に満ちている。これでは、情報操作の謗りを免れない。

この報告では、「イラクが炭素菌を廃棄したというが、その証拠が示されていない」などと言いがかりをつけている。しかし、UNSCOM(国連大量破壊兵器査察特別委員会)が、炭素菌の製造施設を破壊したことも、また、イラクの開発した炭素菌は、最大限三年で効力が失われる事実、培地が五年で無効になる事実も取り上げられていない。

  • パウエル報告に嘘はないか

リッター氏は、パウエル国務長官が、五日、国連安保理で行った報告について、以下のような具体例を挙げながら、確たる事実ではなく、空疎な言葉を連ねただけだ。疑われた総てのことについては、検証されるべきことであって、証拠ではない、と述べた。
 公開された盗聴記録についてだが、これだけでは、何も言えない。いつ、どこで、誰が、何について語った会話なのか、前後関係が全くわからないからである。前後関係を無視すれば、白を黒と言いくるめることも、逆に黒を白と言い募ることもたやすい。

イラク保有しているとされる生物化学兵器製造用トラックが18台あるという話も、疑わしい。何故なら、写真もなく、ただ、絵を見せたに過ぎないからである。実際、リッター氏は、以前、同様の疑いをアメリカ政府から提示され、実際に二台のトラックを調査したが、ただの食品用トラックであった。

また、米国は、U2を使った査察をイラクが拒否した、と非難した。この拒否も、理由のあることなのである。一九九八年十二月一七日。バクダッド現地時間の零時四九分。米軍は、ペルシャ湾沖から、アメリカのスパイ問題で、査察拒否を続けるイラクへの空爆、“砂漠の狐作戦を開始。攻撃ポイントとしてマーキングされた個所、九七箇所のうち八七箇所が、フセイン関連の施設だった。即ち、以前にも、国連の名を冠してU2は盛んに使われたのだが、その主たる目的は、サダム・フセイン殺害の為、彼の居所を突き止めるために使われたのであり、大量破壊兵器関連施設発見のためではなかったのである。この点でも、大量破壊兵器廃絶を唱えるアメリカの嘘は、明らかである。

現在、イラクは、射程百五〇km迄のミサイルしか保有を許されていないが、米は、イラクが、射程千二百kmのミサイルを持とうとしている、と非難する。しかし長距離ミサイルともなれば、実用化するためには、試射が必要なことは、言うまでもない。そして、試射をすれば、現在の監視体制で、はっきり開発が感知できるのである。だが、試射が感知されたことはない。

最後にリッター氏は、アメリカの諺を紹介して、講演を終えた。曰く、“本当の友人は、友人が酔って運転しようとするときには、それを止めるものである。”

今、アメリカという車は、酔っ払いに運転されている。これを諌めるのが友邦としての日本の役割だ、と。

しかし、「友人」に忠告するためにも、戦略は必要である。戦略を練る為には正しい情報を入手し、活用しなければならない。

湾岸戦争」において、アメリカが、油まみれになった海鳥を、いかに上手にプロパガンダに用いていたかを思い出そう。我々は、何故アメリカが、情報操作したいのか、を考える必要がある。また、アメリカは、体制転覆を狙いたがる。何故か? 

カルザイがそうであるように、アメリカの傀儡をトップに置くことによって、エネルギー資源を確保しよう、との狙いが、透けて見える。事実、カルザイが、暫定政権を樹立した二千二年五月末、トルクメニスタンからのパイプラインの話は、本決まりになった。一方、アメリカにとって不都合な情報には緘口令が布かれている。バンカーバスターなどによって撒き散らされた千トンにも及ぶ劣化ウランは、アフガニスタン住民の間に急速に白血病、癌、奇形児などの放射線障害と疑われる症状を多発させている。

アメリカは、イラク民主化や、大量破壊兵器の廃絶を目指していない。単に自国の利益を追求しているに過ぎないということが分かろう。

  • テロに対する戦争

また、ブッシュの言う、「テロに対する戦争」いう言い方も奇妙である。ブッシュが、こんな奇天烈な言い方を始める前、テロに対しては、刑事・警察機構が対応するのが常であった。被害は、かなり大きなものであったにしても、対国家に対して行われる戦争と異なり、テロ組織にアタックする為の武器にかける費用、また種類等においても、戦争にかけるそれとは、雲泥の差があったのである。

ところが、ブッシュ政権は、この垣根を取り払ってしまった。しかも、アルカイーダを殲滅すると言って、実際にやったことは、タリバーンが実効支配していたアフガニスタンを攻撃することであり、これは、「国家」に対する戦争であった。軍需産業を潤わす為に奇妙な捩れが存在していると言わねばなるまい。

  • 戦争回避の為に

しかし、米政府への様々な反証にも関わらず、リッター氏に弱点が無いわけではない。彼は、現在査察官をしているわけではない、という事実である。前回査察が、中断されてから、既に四年の月日が流れた。この間、イラクが、どのように自国軍を維持し、防衛を考えてきたのか? については、不分明な点があるのも、また本当のことなのだ。だが、戦争が始まって、いつも一番つらい目に遭うのが、女性、子供、老人であることを考え合わせて欲しい。戦争は、避けるべきである。戦争が起こってしまえば、その損失は、経済的損失や人命だけに止まらない。環境破壊もまた深刻である。

査察を継続することで、このような損失を未然に防ぐことができるとすれば、それを推し進めることが肝要である。我々は、我々の頭で、目で、事態の推移を冷静に見つめ、判断してゆかなければならない。