明日

「明日」演劇企画イロトリドリノハナvol.1 2018.9/19~9/24 Theater Kassai

 タイトルから直ぐに原爆の話だと気付くが、一体我々は原爆の恐ろしさについてどれほどの想像力を持ち得るだろう? 今作のファーストシーンは、核炸裂の瞬間ではない。日本によって戦後、勲一等旭日章を授与されたアメリカの将、カーチス・ルメイ旗下の米空軍による佐世保への焼夷弾攻撃である。日本全国に焼夷弾の弾雨を降らせた張本人だ。彼のやり方は、先ず逃げ場を塞ぐ。東京大空襲を例にとると、進入路の海側を除く3方の各辺を火の海にして一般市民の逃げ場を断ち、その上で絨毯爆撃をするというもので、僅か数時間で十万名以上の女、子供、老人が亡くなった。カーチスらは攻撃前「日本の家は竹と紙でできている、良く燃える」と笑っていたとの話は人口に膾炙していたから聞いたことがあるかも知れない。何れにせよ、当時の国際法でも一般市民への無差別空爆国際法違反であった。それは、日本が重慶に対して行った空爆も同様である。国際関係論の中で、以上の事実を挙げただけで何とかの一つ覚えを繰り返す御仁も居るが、そんなことはおいて、今作は、もっと肝心なことを描いている。それは、殺される側の生活である。フィクションという形ではあるが、史実をキチンと踏まえ庶民の日常を丁寧に描いている点、対比する戦争を情報とヒロイン・ヤエの姉、ツル子のB29恐怖症として表している点が秀逸である。88日から、原爆投下の瞬間迄の26時間の要所、要所を時刻表示で表し、不可逆的な時間の齎す不可避性を最も効果的に表現した演出も、役者達全員の、役を生きる一見控え目だがタメの効いたしっかりした演技も良い。原作は知らなかったのだが、原作も是非読みたくなる出来である。上手奥に掛かる掛け軸や有田焼の壺なども、この一家の社会的位置と気位を偲ばせる。同時にあの時代のヤエの婚礼に出席する者達の中に、紋付袴や和服を着ている者が登場したり、お頭付の鯛が登場したりするのを近隣の者達が涎を垂らさんばかり食い入るように見つめているさまを表している点、矢張り近隣の者が、物資横流しの罪を被った親戚の者の娘を恫喝して石鹸を奪い取ってゆく様を描く辺りのリアリティーが、戦争の最も本質的核心である情報戦と経済力・政治力などの下支えとして機能していることも見逃せない。

 更に、戦争で傷ついた者が持つデカダンスニヒリズム、苦悩の帰結としてのさつきと石原の関わりも、単なるサイドストーリーに終わらぬ深い考察を促す点がグー。